怖い話し……。



 ルナは涙目でカオルの上着を捕まえた。
 その様子にカオルは呆れ、ため息が零れた。
「あのな……」
「お願い! 本当にお願い! カオルにしか頼めないの!!」
 そう言って上目遣いで見てくるルナにカオルは嫌そうな顔を見せる。
「……あのな」
「だってぇ」
「見なきゃいいだろ?」
「見たいから頼んでるんでしょぉー!?」
 カオルの言葉にルナは即座に返した。
「おーねーがーいー!!」
 パンっと両手を合わせて拝むようにカオルに頭を下げる。
 カオルはそのルナのオレンジ色の頭を見つめて、やがて諦めた。



 ルナはぎゅーっと腕に力を込めて、不安げな表情でテレビを見つめている。
 ルナにぎゅーっと抱きつかれているカオルは呆れた表情でテレビを見ていた。
 スピーカーから不安を煽る不気味な音が流れ、その音とテレビのいかにもな場面にルナの腕にさらに力が入った。
 爪! 爪が立ってる! 爪!!
 しがみついているルナにカオルはそう思いながらも声は出さず、痛みに耐える。
『きゃぁぁぁあああああああ!!!』
「ひっ」
 大音量で響いた悲鳴にルナも釣られて体を竦ませる。
 ぎゅっと体を寄せて、腕と指に力が篭る。
 ルナを安心させるためかカオルもルナを抱き寄せ、それによりルナの腕から力が抜けていく。
 それらの間中、ルナの視線がテレビから離れる事はなく、彼女の青い瞳は真剣に、まっすぐにホラー映画を見詰めていた。


「あー……怖かったぁ」
 スタッフロールが流れ始めて、ルナはそう言って、力なくうな垂れてカオルの体に頭も体も預ける。
「いつも思うんだがな」
「いつも聞いてるからいいよ」
 カオルの言葉にルナはそう答えてすりすりと額を擦る。
「なーんでカオルは怖くないのぉ? あれ怖いっていうので有名な映画なのにぃ」
「なんでと言われてもな」
 すりすりと猫や犬のように顔を寄せるルナの髪を逆撫でしながらカオルは答えていく。
「怖くないのだから仕方が無い」
「じゃあ、カオルの怖いものってなによぉ」
 ふて腐れたようにルナは言ってずりずりと頭を下げて、足を伸ばしていく。
「ルナかな?」
「ひっどーい」
 カオルの膝に頭を乗せてごろりと寝転ぶ。
「何故?」
 ルナの言葉にカオルは不思議そうに返した。
「だって、今のってわたしがよく怒ってるとかそういうことでしょぉ!?」
 カオルを見上げて両頬を摘み、そのまま指が掴めなくなって離れるまでひっぱっていく。
「そういう意味じゃないが?」
 引っ張られた頬の左だけを少し擦りカオルは返す。
「じゃあ、どういう意味?」
 ふて腐れたようにルナが言って、カオルは小さく笑う。
「ルナに嫌われたり、傍に居られなくなる事。とかか?」
 小さく笑い、自分を見つめてそう言うカオルにルナは目を大きく開けて、今度は自分の頬を両手で押さえた。
「きゃー。はずかしー!」
 そう言ってカオルの視線から顔をそらせる。
「とかいいつつ全然平気だろ?」
 作った声でそう言うのだからどう聞いても本気じゃない。
「うん。まぁ、でも、恥ずかしいのも本当よ?」
 顔を戻してルナは言って、カオルを見上げる。
「それで、カオルは本当は何が怖いの?」
 楽しそうに聞いてくるルナにカオルは少し呆れた。
「カオルだって人間だもんねぇ〜。何かあるんじゃない? あ、実は結構意外なものがキライだったりして〜」
 と非常に楽しそうにルナは言って、カオルはやれやれと背もたれにしていたベッドにさらに背中を預ける。
「もうなんでもいいからルナが好きなものを俺の苦手なものにしてくれ」
「えー。なにその投げやりな言葉ぁ」
 カオルの言葉にルナは不服そうにして、自分の顔を撫でるカオルの手に自分の手を重ね、頬から離す。
 納得出来ないようだ。
「じゃあ、代わりと言ってはなんだが」
「ん? 何々?」
 カオルの言葉にルナは興味津々と見上げ、カオルはにやりと笑った。
「俺が知っている怖い話を延々としてやろう」
「わぁ! ちょっと待ってぇ〜!」
 何がどう代わりなのよぉ! とルナは少し焦りながら耳を押さえる。
「アストロノーツでは有名な話だったんだがな」
 耳を押さえるルナにカオルは意地悪く笑い、その手を取るように握り、耳から離していく。
「きゃーきゃー! ちょ、やー!!」
「そいつは当然のように宇宙飛行士にあこがれてやってきたやつでな」
 耳に入ってくるカオルの低い言葉にルナは声をあげてばたばたと動く。
 カオルはその様子に楽しそうに笑いながら続けていく。
「やーめーてー!」
 昔聞いた話は本当に怖かった。
 その思い出が蘇り、ルナはわたわたと逃げ出そうとする。
「そいつが学園に来て3年目、突然血を吐いて廊下で倒れた」
 逃げようとするルナを後ろから抱きしめて耳元で囁く。
「ふぇー……」
 ぎゅっと目を閉じて、ルナはすぐ傍から聞こえる声に、泣きそうな表情で耐える。
「宇宙飛行士になる事が叶わなかったその訓練生の、その未練は凄まじく」
 ぎゅーっと自分を捕まえてるカオルの腕を両手で握りルナは脳内で繰り広げられる想像に怖がる。
「夜な夜な訓練生を見つけては『もっと自主訓練しろ!』と怒鳴り散らす、怖い用務員になったらしい」
「…………って、死んでないじゃん!!」
 少し間を取ってルナはそう声をあげる。
 彼女の想像ではすでに死んでいて、うっすらと薄い姿で廊下に時折現れる少年だった。
「死んでないぞ」
 カオルはしれっと答えて、ルナの肩から力が抜ける。
「なーんだぁ」
 ほっとしつつもどこかがっかりしたような声。
「ほんっと好きだよな、怖い話し」
「むー」
 笑みを含んだカオルの声に、ルナは唇を尖らせる。
「なんか納得いかなーい」
「何が?」
「わたしだけがからかわれるのが」
「そうか?」
「そう」
 なんか仕返ししたいなぁ。と呟くルナにカオルは笑う。
「良い、方法があるが?」
「なあにぃ?」
 自分から言うのだから大した方法でもないだろうと言いたそうな、不信顔で尋ね返す。
「一週間。ルナと会話、スキンシップ無し」
「ごめん、それ、わたしもきついわ」
 カオルの言葉にルナはそう言って、お互いに小さく笑いあう。
「あ。でもいいの思いついた」
 ルナはそう言って自信満々に笑う。
「何?」
「一週間。わたしと一緒にラブストーリー物の映画のはしご!!」
 ルナの言葉にカオルの表情が非常に嫌そうなものになる。
「眠って……」
「駄目。絶対起きててね!」
 今度は逆にルナが勝ち誇ったように笑い、カオルが疲れた表情でベッドにうつ伏す。
「絶対寝るぞ、それ」
「駄目だってば。じゃ、さっそくレンタル、レンタル〜」
「今からか!?」
「うん。いいじゃん、明日休みだし〜」
 モニターをネットに繋げてレンタルショップのページを出す。
「うっふふ〜。どーんなラブストーリーものにしよっかなぁ〜」
「勘弁してくれ……」
「い・や」
 カオルの言葉にハートマークすら付いていそうな程、嬉しそうな声でルナは言って、カオルは諦めたように天井を見つめた。
「あ、これにしよ〜」
 ルナの明るい声が聞こえ、カオルは仕方なくだれていた体を起こし座りなおす。
 モニターに映る予告。
 カオルにとっては、ある種の地獄の始まりだった。






 後書き。
   という名の言い訳を始めましょうか……。


 今、一番の自分の被害者、蒼林檎様に捧げます……。


 もちろん、返却もOKです。期限もありません……。


っこれは・・!俺の急所をついているっ!!!
ああぁ〜///かわいすぎだよ〜
夏木さんからまたまた貰っちゃいました^^*
何にもしてないのに・・こっちはこっちで夏木さんとメールするのが楽しいのに・・・
なので、この場面のどこかを描こうと思います!!
そして夏木さんに押し付けちゃおう!(おい;!!
夏木さん、ありがとうございましたぁ!!