小さな個室。
カラオケの一室でルナとハワードが二人っきりで座っていた。
「ルナ」
ハワードがルナを見つめ、コップを持ち上げてる。
「乾杯しよう」
「……乾杯?」
ルナが尋ね返す。
「そう。君のその美しい瞳に乾杯」
熱いまなざしでハワードは言った。
「ぷっ!」
ルナは真剣な眼差しがかえって面白く、笑い出した。
「掴みはOK?」
「あはは、そうかもー。っていうか、まじでする気、それ?」
「さぁ、好評だったらするかも」
ハワードの言葉にルナは笑い、テーブルに置いていたノートに何かを記入していく。
「んじゃこう言うのはどうだ」
ハワードは言うなり、ルナの手をとった。
「ああ、美しいお嬢さん、あなたに会えて、ボクは幸せだ」
じっとルナを見つめてハワードは囁いてくる。
「ひー」
恥ずかしそうにルナは言って頭を振る。
「とりあえず、ハワードはお笑い系っと」
「待てこら、今のどこがだよ!!」
「えー。全てにおいて」
ルナは答えてハワードはやってらんねーっと手を離した。
「ハワードとしてはどうなの?」
「何が?」
「今回のこの企画」
「まぁボクとしては面白そうだなぁっと思わなくもないぞ。同時にめんどくさそうだなとも思うけどな」
「ふーん?」
ルナはそれもノートに書いていく。
「でも、確かにハワードは平気そうよねぇ」
「ま、ボクはな」
ルナの言葉にハワードは頷いて、ぱちんと指を鳴らした。
「あ、じゃあこういうのはどうだ?」
とハワードは言うなり、ルナのあごに手を置いて自分の方を向かせた。
「貴方の、その赤くおいしそうな唇を奪ってみたい…」
少しだけハワードは顔を近づける。
「あ、それはアウトでしょう」
それに対しルナは少し体を引かせた。
「アウトか?」
「うん。アウトアウトー」
ルナはそう言って手で×を作る。
「んー。じゃあ、どんなのがいいんだぁ」
「そうねぇ。まぁ、これも本決まりっていうわけじゃないしねぇ」
「っだなー」
ルナの言葉にハワードが頷き、こんこんっと扉が鳴らされた。
「お、終わりみたいだな」
ハワードは言って立ち、ルナの手を取った。
「じゃあね、お嬢さん」
そう言って取った手を唇の近くに持っていく。
ひゃー。とルナは思ったが、近くに持っていくだけで何もしなかった。
そしてハワードは部屋から出て行く。
「今のはどきっとするなぁ。でもそういうのは逆にまずいんじゃないかなぁ」
ルナはぽりぽりとペンで頭を書きながらノートに記入していく。
面白いが、ちょっと問題あり。
とルナは記入し、やがて扉がノックされた。
入ってきたのはベル。
「あっと、こっちいいかな?」
ルナの隣を指差して、ベルは尋ねる。
「ええ、どうぞ」
ルナは頷き、ベルが隣に座る。
「……ベルは……こういうの……」
ルナの言葉にベルは静かに頷く。
「ちょっと、苦手だね」
「……よねぇ」
ルナも苦笑した。
少し間が生まれる。
「……あ、飲み物入れてくるよ? 何がいい?」
「あ、ありがとう。えっとウーロン茶」
ルナの言葉にベルは頷いてコップを取って外にあるドリンクバーへと向かう。
一人ぽつんと残りルナはぽりぽりと頬をかく。
微妙な空気。
それも仕方が無いのかもしれない。
やっぱり怒ってるかなぁ。
視線を下げ、人差し指を擦り合わせる。
扉が開いてベルが戻ってきた。
「ウーロン茶割りをお持ちいたしました」
ベルがどこか恥ずかしそうに言ってただのウーロン茶を置いていく。
「あはは、どうも」
ルナは笑顔で頷いて会釈する。
「ハワードは結構まじめにしてたの?」
「んっとねぇ。お笑い系って感じもしたけど。君の瞳に乾杯とか言ってきたよ」
「うっわー。言ったんだ」
「すっごいまじめな顔で言うから笑っちゃった」
「あはは。ハワードはこういうの好きそうだからねぇ」
そうそう。とルナは頷く。
「じゃあ、オレも頑張ろうかな…」
ベルはそう言ってルナに向き直った。
それにルナはどきどきとする。
すぐには理解できなかったが一度告白された身。
仲間だと今でも思う。
向こうもそう思っていると思いたい。
「ルナ、その………」
恥ずかしそうに顔を下にし、ベルは視線を泳がす。
「………」
ルナも無言で視線をうつむかせる。
「その……、えっと。君の笑顔はまるで太陽のようで、みんなを明るくさせてくれる!」
ベルはそう言ってルナの手を取った。
「いや、太陽よりも月よりも君は………」
ベルは真っ赤になりながらそこまで言って左側に向いて怒鳴った。
「って言えないよー、こんなのー!!」
と、考えた誰かに向かって言った。
そして握っていた手を離し、顔を抑える。
「無理無理、これ、オレには無理な企画だよぉ」
耳まで赤くなったベルにルナは苦笑する。
「……やっぱり、恥ずかしい?」
「うん。恥ずかしい」
ベルは頷いてルナに答えた。
ルナは頷きながらその事をノートに記入していく。
「誰が考えたの? さっきの台詞」
「チャコと、シンゴ…」
「そうなんだ。もー、チャコってば…」
ルナは苦笑してベルを見た。
それからしばらくどんな台詞があったのか、話をしていき、やがて扉が叩かれた。
「じゃあ」
そう声をかけてベルは立ち上がり、部屋から出て行く。
ルナはぱたんと閉じられた扉を見たあと、ベルが持ってきたウーロン茶を飲みながら紙に記入していく。
しばらくして扉が叩かれシンゴが入ってくる。
「ご指名頂き、ありがとうございまーす」
とシンゴは言ってきた。
「もー。ベルに変な台詞ばっかり言わせようとしたんだってー?」
入ってきたシンゴにルナは言って、シンゴはその言葉に笑う。
「はは、僕じゃないよ。チャコだよぉ。で、どう。言えた?」
「あはは、無理だった」
「あははは。そうなんだ」
シンゴは頷いてルナを見た。
「でも、シンゴだって、こういうの言えるー?」
ルナはくすっと笑って尋ねる。
「言えるよ〜、そりゃ」
肩を少しあげてそういうシンゴにルナは笑う。
「えー? じゃあ言って見てよぉ」
「えー? 言うのぉ?」
途端に嫌そうな顔。
「ほらぁ」
「だってさぁ、ああいうのは他人がやってるを見るのが楽しいじゃん?」
「あのねぇ。もぉー」
シンゴの言葉にルナは少し怒った顔を見せた。
「ベル、ただでさえこういうの苦手なんだから〜」
「そうは言うけどさぁ。やっぱりねぇ。こういう企画だから楽しもうみたいな。……もしかして、気まずかったの?」
シンゴの言葉にルナは小さく頷く。
「そっかぁ、コロニー帰ってから余計ギクシャクしたような感じ?」
「そういうわけではないけど、やっぱりこう、二人っきりになるとねぇ。少なくともわたしは意識しちゃうし」
「そっか」
シンゴはテーブルに両肘をついて、手のひらに頭を乗せる。
「もう、吹っ切ったのかと思ってた」
「んんー……、わたしだけが意識してるだけなのかもしれないし……。それに、もしかしたらベルの緊張はシンゴとチャコが考えた恥ずかしい台詞の数々のせいかもしれないし?」
「あははは。かもねぇ」
シンゴが笑ったところで隣の部屋がガタガタどたばたと動き出す。
「逃げるな、馬鹿!!」
というハワードの声も聞こえてくる。
ルナとシンゴが顔を見合わせたところでもうひとつの声も。
「はなせぇ!」
とカオルの声。
「……何?」
ルナは首を傾げる。
「さぁ」
シンゴも首を傾げた。
しばらく隣の壁を眺めていたが、ルナははっとしてシンゴを見た。
「シンゴはこの企画どう思うの?」
「え? ああ。んー。どうだろう。まぁ、嫌じゃないけど、どうせ、僕裏方だろうし?」
「そんなのわかんないわよ?」
「えー? 分かるよ。ハワードとかカオルとかだと絶対表に回されると思うけど」
シンゴの言葉にルナはうんうん頷く。
「っよねぇ」
「ついでに、すっごく嫌がりそうだけどねぇ」
シンゴは先ほどの騒ぎを思い出し、視線を隣の部屋に向ける。
「……よねぇ」
ルナも頷く。
こんこんっと扉がなり、シンゴが扉を見た。
「あー…しまった。もう時間なんだ、何もそれらしい事してない!」
「あはは、いいよ、別に」
ルナはそう言って、シンゴがそれに唇を尖らせた。
「ちぇー。子供だと思って」
このメンバーの中にいるとたった2歳の差しかないのにもっと年が離れているように思える。
「そんなことないよ」
とルナは言ったが、シンゴは余計子供扱いされてる気がしてルナに手を伸ばしてぎゅっと抱きしめると頬にキスをする。
ルナは驚き、目を見開いた。
シンゴはべーっと舌を出した。
「子供だってこれぐらいできるもんねーだ」
そう言ってどこか怒ったように出て行き、ルナは左頬を押さえて目をぱちぱちとさせ、扉を見つめる。
「お……おっどろいたぁ……」
そう呟いて、いまさらドキドキしだしてきた胸を押さえる。
軽いノック音がし、最後の一人のカオルが入ってきた。
伸ばされた髪は後ろで縛られている。
「……あー、さっきの……」
騒ぎはこれかと思ったルナにカオルは近づいてきて、肩をがしっと捕まえる。
「止めてくれ」
顔を近づけて来て、カオルは言う。
「え?」
あまりの近さにルナはまた心臓が鳴り出した。
真剣な目でカオルは続ける。
「頼む、シャアラを止めてくれ。ルナにしか出来ないんだ」
「え……とぉ」
「頼む!」
真剣な顔でカオルは見つめてくる。
「う、ん。まぁカオルが嫌だってことは分かってたし、裏方に回れば……」
顔近いよー。とルナはそう思いながらカオルに言う。
「あのな、それを許してくれると思うか? 俺は絶対に表だって目を輝かせて言ってたんだぞ!? 俺は絶対に嫌だからな! あちこちのテーブル回って笑顔振りまくなんて出来るわけないだろ!?」
「ま、まぁ……無理……よね?」
笑顔を振りまく。
じっと自分を見つめてくるカオルが、本番女性客に満面の笑顔を向けて飲み物をテーブルに置いて、トークを繰り広げる。
……は、無理でしょう。
とルナは思って考えを改める。
カオルなら絶対、無言だって。
目の前の真剣な表情で自分を見つめてくるカオルを見ながらルナは想像する。
女の子がカオルを取り囲むように座っていて、きゃあきゃあいう女の子にカオルは終始無言。
でも、例えそれでも……。
ルナは改めてカオルを見た。
普段着の彼からそれらしい格好をしたカオルを想像し、ぶるぶると頭を振った。
お、恐ろしい。ライバルが増えるライバルが!!
「わ、分かったわ。シャアラにはわたしからちゃんと言う」
ルナがこくんこくんと頷くと、カオルの表情から力が抜けてほっとした顔になり、さらに顔が近づいて来た。
キスされてルナは唇を押さえる。
「絶対だぞ?」
そう言ってカオルは微笑んで、部屋から出て行った。
唇を押さえていた指が考え込むようにあごに置かれる。
「ルナぁ? どうだったぁ?」
楽しそうな、シャアラにルナは、カオルがした様にその両肩を捕まえた。
「やめよう」
ルナは半分泣きそうな顔でシャアラを見つめる。
「ね、ホストなんて、文化祭じゃ不向きだって! ね! やめよ!!」
「えー? でも、ホストっていう響きは悪いけど、他のクラスの子と色々しゃべれる機会だと思うんだけどぉ」
「それはそうなんだけどぉー!! やめようよー!!」
とルナはぎゅーっとシャアラを抱きしめた。
ライバルが増えるの! 絶対ライバルが増えるの!! べたべた触るかも知れないしー!! いやぁあ!!
そう思い抱きつくルナ。
「……まぁ、ルナがそこまでいうなら……」
シャアラは少し残念そうだったがそういう。
「ほんと? 約束よ? シャアラ」
体を離し、じっとルナはシャアラを見つめる。
「ええ。分かったわ、ルナ」
シャアラはそう言って、頷く。
その言葉にメノリ、カオル、ベルがほっと息を吐いた。
「よく止めた」
メノリがシャアラに聞こえないようにカオルに言う。
「絶対にごめんだからな……」
カオルも安堵したように言う。
ベルとルナとメノリのかっこいい姿、見たかったんだけどなぁ…。
女子も男装して接客する。という予定だった。
シャアラは唇に人差し指を置いて、残念そうに心の中で呟いた。
かくして、文化祭にホストクラブをしようというシャアラの案はクラスで発表される前に封印されるようである。
後書き。
えー、アンケートにご協力いただいたあおりんごさんのお題で……。
「ルナ総受け」
でした………。
きつかったでふ……。(苦笑)
これはどっちー!?
とかしましたよ。
すべてのカオルナでルナちゃんがカオルに迫られてるのか、
はたまたメンバー全員に迫られているのか……。
すっごーくきつかったです。ふふ……。
お題のすごさを知りましたv 見たいな感じでしたねぇ。
ここ数日、逃げては書き、書いては逃げてを繰り返し、やっとこさ形に……。
あおりんごさん、こんなんですが、どうぞ、もらってください……。
返却も可能です。期限はありません。
アンケートご協力ありがとうございましたー。